その 6結婚してから、夫の口数の少なさに対する不満は少しずつ膨らんでいったようでした。 その不安を誰に 訴えたらよいのか、母はKさん(ここでは便宜上 Kさん と呼ぶことにします) の存在を知りました。 Kさん夫妻はキリスト教を強く信じる、言ってみれば 救いを求める人たちの心の支えの場を提供している 人たちでした。 母はそこで“夫の口数の少なさ” について 相談していたんだと思います。 そうこうしているうちに、私が生まれ、弟が生まれ、もう一人 弟が生まれ、母は3人の子供との生活に追われることになって いきます。 私が幼い頃は、母は私を一緒に連れて Kさんの 主催する日曜キリスト教を学ぶ会のようなものに行ったものです。 3人の子供が成長するにつれ、“夫の口数の少なさ” を気にして いる場合ではなくなってきて、子育てが忙しく、そのことはとりあえず 解決されないまま心の底に沈んでいった状態でした。 母は体がとても丈夫という人ではありませんでした。 といっても 大きな病気をするというわけでもなく、胃や消化器系の内臓が弱かった という具合です。 心の奥底に浮き沈みする“夫の口数の少なさ”を気にしつつ、自分の 体の弱さを気にしつつ、母はその解決口を自分の夫ではなく、いまま での Kさん夫妻や、天風さん、栗一(もしくはクリイチ)さん、 これらの名前知っている人は知っていると思いますが、その道では どなたも名の知れた人達のはずです。 言ってみれば、この人達は 今でいう、ポジテイブシンキング を提唱しているような人だと思い ます。 そういう人達の本を読んだり、講演に行ったり、自分に 頑張れ、頑張れ、と言い続けてきたんだと思います。 子供が3人成人し、夫が定年退職する頃、“口数の少ない夫” の問題 がゆっくり母の心の表面に浮かんできます。 父の趣味は登山です。 母もそれに習い、登山をします。 母の夢は 夫が退職したら二人でいろんな山登りにチャレンジしたいという ものでした。 父の退職後の夢は母とはまったく別のものでした。 |